
10月30日に豊中のチッポグラフィアで開催された東西二大珈琲人のトークショー、『コーヒー屋の話を聞く 小川清(平岡珈琲店)×中川ワニ(中川ワニ珈琲)@チッポグラフィア』。珈琲の話からはじまり、食の業界に関することや、お店作りに関すること、そしてお店を選ぶ私たちが心がけたいことなど、「金の名言」が飛び交う素晴らしいトークが繰り広げられました。
Musicafeではこのトークから、これは!の名場面を、毎週木曜日にシリーズで連載していきます。
vol.4は「ブレンドを語る〜珈琲豆の現状」です。
トーク中盤に平岡珈琲小川さんより珈琲を淹れていただき、ドーナツと一緒にいただく至福のひとときの後、珈琲自身についての話に展開していきました。
ナビゲーターの『甘苦一滴』編集長田中慶一さんも登場されますよ。
※写真はイベントのもう一つのお楽しみ、小川さんが珈琲を淹れて下さっている場面より。
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田中慶一さん(『甘苦一滴』)<以下、T>:
平岡珈琲さんは、ブレンドの豆を変えられたんですよね。
小川清さん(平岡珈琲店)<以下、O>:
そうなんです。これは祖父の考えたブレンドとは違います。祖父も同じくコロンビアを使っていたんですけれど、スプレムエルブイではなくてスプレモなんです。モカマタリとハライとジャバです。イエメン産のモカマタリは今ほとんど入らないですね。ハライもですし、モカは新しい産地のプレミアのものは入りますけど、従来のものは入らなくなってしまって、残念ながら昔のブレンドは作れなくなってしまい、2年前に変えました。
中川ワニさん(中川ワニ珈琲)<以下、W>:
最近若い人で焙煎する人、少なくなりましたね。
O:以前の平岡の古いほうのブレンドでは、ロブスターは思いっきりイタリアンまで炒ってたんです。ロブスターは昔の人は苦みを出すのに使うので、深煎りする人がほとんどでした。私が試しに色々飲んでみたときに、控えめに中煎りぐらいで飲んだら意外と酸味がさわやかで美味しい。決して悪くないということで、今回のブレンドはロブスターは浅めにしています。
W:実は最近割とロブスターを使うようになったんですよ。ロブスターって独特の魅力がありますね。
■思った通りの足し算に絶対ならないから、ブレンドはクリエイティブで面白い。
O:ブレンドというのは複数の豆の組み合わせです。その他にバッティングというのは一種類の豆を違う風に煎り分けて、混ぜる方法です。自分で煎るようになると、次はブレンドを作りたくなります。焙煎の仕事とブレンドの仕事と味の設計というのは、全く違う仕事ですから、クリエイティブで面白いし、足し算には絶対なりません。香りはコロンビアで出して、甘みはグワテマラで出して、酸味をジャバで出してと思いますが、絶対思った通りの足し算にはならないです。そこが面白いところです。混ぜてしまってから自分の狙った味におとせるように、焙煎の具合を変えていきます。違う豆を混ぜ始めると迷路に陥って、永久に狙った味は出ません(笑)。
T:ワニさんと共通項はブレンドですよね。
W:僕はブレンドしかやりませんけど、最初に混ぜちゃうんです。
■珈琲豆は今、非常に危機的状況に置かれている。
O:珈琲は今とても危険な作物になっていて、供給がいつ切れるかわからない状態です。本当に危機的状況なんです。
一つは気候です。ブッシュ大統領の頃、何度もアメリカにハリケーンがあり、アメリカの被害は報じられていましたが、カリブ海の被害はあんなものじゃないんです。
ブルーマウンテンは通常標高の高いところで取れるので、潮の被害はありませんが、台風だけは別です。気圧が上がるから潮がぐっと上がるし、台風で潮風も上がります。珈琲は潮が当たったら枯れてしまい、一度枯れると次出てくるのに3年かかりますから、私も2年ぐらいは全く手に入りませんでした。
そんな風に、気象問題、環境破壊が大きな影響をもたらしています。今酷いのはアフリカのケニアで、全く雨が降っていないんです。ケニアは酸味がとってもフルーティーなんです。レモンでも絞ったかのようなかんきつ系の味がするので、私も面白くて好きなんですけれど。
もう一つは、遺伝子操作の問題です。ブルーマウンテンというのはジャマイカという島で取られていますが、屋久島みたいに火山があって、一番高い標高は2600mぐらいあります。ほぼ赤道上にあるので一番上でもかなり暖かくて草が生えます。かなり高い山の上まで緑なのでブルーマウンテンと呼ばれるのですが、標高の高いところがいい珈琲の産地です。今ほとんど細胞培養、遺伝子操作をされているんです。大豆どころではありません。一つの産地で全部同じなので、何か一つ病原菌が起こったら、そこの産地は全滅する可能性があります。
W:ここ数年、割とケニアを使って焙煎する人、増えましたね。十何年前にケニアを使っている人はあまりいなかったです。
O:今新しいプレミアクラスのはすごく面白いです。ただ安定供給ができないんですよね。いい豆というのは、山崎さん(チッポグラフィア)が扱っているのもそうですけれど、ワインの考え方と一緒なんです。ワインって産地が小さくなればなるほど高いんです。つまりフランスワインと売っているのはいっぱい混ぜてあるわけです。中には絞ったぶどうで濃縮ジュースを作って、それを貯めておいて、必要な時に水で薄めてそこに酵母を入れるとワイン。それがボルドーワインとなるとぐっと産地が絞られますね。サンテミリオールとか、さらにいくと○○さんの畑となると一本数万円。最近珈琲でも増えてきました。ただし毎年味が変わる。せっかく仕入れても、もう来年までありません。
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ブレンドの話から、珈琲豆の危機的状況の話につながり、当然のように飲んでいる珈琲が消えるかもしれない事態にあることを初めて知り、かなり衝撃を受けました。どの作物にも共通して言えることなのかもしれませんが、ほとんどを輸入に頼っている珈琲豆は尚のこと深刻です。
次回で最終回となるトーク企画では、一期一会の味という切り口で作り手と受け手の私たちの新しい関係に踏み込んでいきます。
vol.5は12月9日(木)配信予定です。
お楽しみに!